90年代アニメ&声優ソングガイド レビュー

90年代。それは良くも悪くも、アニメや特撮など、いわゆる二次元コンテンツのサブカルチャーを語る上では、欠かせない時代だろう。

アニメで言えば、今もなお燦然と輝く【エヴァンゲリオン】が生まれたのもこの時代。今もなお、世界的人気を誇る、【ワンピース】・【ポケットモンスター】のアニメが始まったのもこの時代。昨今リバイバルされた【るろうに剣心】も【SLAM DUNK】も、この時代だ。

つまりこの、90年代という時期は、今のアニメシーンを語る上では絶対に外せないマイルストーン的要衝であり、オタク的に言うならば、特異点、とも呼べる時代だろう。

 

そんな90年代、アニメはもちろんそうだが、アニメを語る上ではもう一つ、欠かせないものがある。
それは、今も脈拍と受け継がれており、今やそれ専門のバーすらある、音楽のジャンルにまでなったもの。

 

そう、アニメソング・アニソン、だ。

 

今でもなお多くの人が知っている『残酷な天使のテーゼ』・『ウィーアー!』をはじめ、未だにバラエティ番組でも使われることが多い【カウボーイビバップ】のOPの『Tank!』
アニメソングが紅白で歌われるという、今となってはそこまで珍しいことではないが、当時は事件とも呼べる出来事だった、田村直美が歌う、【魔法騎士レイアース】のOP『ゆずれない願い』等々、アニメソングもまた、この時期大きな変革を迎えたと、間違いなく言える時代だろう。

 

また、余談にはなるが、この時代に、所謂【J-POP】という、今や日本の音楽と言われて、多くの日本人が真っ先に思い浮かぶこのジャンルが定着・大衆化したのも、この時代であり、かつ、今や当たり前となっている、【音楽フェス】が日本で始まり出したのも、この90年代なため、そうした音楽的な面においても、90年代は絶対に切り離して語ることが出来ない時代であると同時に、実はとんでもない時代なのでは?と改めて思わされる。

 

と、話は逸れたが、そんな90年代のアニメソングを振り返ろうというテーマの元、製作されたのが今回紹介させていただく【90年代アニメ&声優ソングガイド 名曲しかない! 音楽史に残したいエバーグリーンな600曲】という本だ。

 

作者はあらにゃんとはるのおとという、いわゆるアニソンクラブ・アニクラなどで活躍をしているDJという、どこかの出版社に所属しているわけではないため、良い意味であえて言えば、一オタクだ。

だが、だからこそ、な面もあるが、一オタクだからこそ、今回選曲した600曲は、有名曲からこんな曲まで、という、メジャーからマイナーまで、ありとあらゆるアニメソングが豊富にラインナップされている。

 

ちなみにこのあらにゃんとはるのおとという作者について、筆者も今回初めて名前を聞いたため、どんな人なのだろうと調べていくと、以前筆者も参加していた、ナガノアニエラフェスタ2023にて、2日目に出演をしていた寺島拓篤のライブのMCで、観客席にワギャンランドのTシャツのやつがいてそれどこで買ったの!?と思わず聞きに行きそうになった、と言っていたのだが、そのワギャンランドのTシャツを着ていたのが、このはるのおとだというのだ。

まさかこんな形でこの人物に当たるとは思わず、かつ、そんな人が書いているのだと思うと、尚のこと信頼が置けた。

ちなみにその時のレポートは以下より読めるので、もし興味があれば読んでいただければ幸いだ。

ナガノアニエラフェスタ 2023 Day2 ライブレポート

 

と、話が逸れたが、今回はこの本をレビューしていく。
おそらく、この本に対して真面目にレビューをするのは、メディア数あれど、ウチだけだという自負を持ちつつ(笑)


 

 

まず、本著は、タイトルにもある通り、90年代アニメ・声優ソングとあるように、その時代がメインで特集をされていますが、その90年代に入る直前の、80年代のアニソン。そして、その90年代が過ぎた後の2000年代前半のアニメソングもいくつか紹介をされているため、時代だけで言えば、約20年分のアニメ・声優ソングが網羅されている。

また、本著の作者はあらにゃんとはるのおとと先程も紹介したが、それだけでなく、数多くの人物が短いながらも、楽曲に対するそれぞれの熱いコメントが書かれている。

その中には著名な方も特集、のような形で楽曲と共にこの時代へのコメントや思い出なども語っており、一部紹介をさせていただくと、アニメ音楽情報発信サイトであるリスアニ!でも活躍されている【河瀬タツヤ】・元モノブライトのベーシストである【出口博之】

そしてなんと、【榎本温子】・【桃井はるこ】までもが参加をしており、その当時の渦中にいた人物たちもレビューをしているため、ただの昔を懐かしんだ懐古本にならない、いわばプロとアマチュアの視点が入り混じったからこその、様々な視点からの当時を振り返るというレビュー本なため、この本の本気具合がこれだけでもわかるはずだ。

 

加えて、キーマンインタビューという形で、アニソンを通ってきた方なら一度は聞いたことがあるレーベル、フライングドッグの代表取締役である【佐々木史郎】

名探偵コナンの工藤新一・ワンピースのウソップ・犬夜叉の犬夜叉等々、挙げればキリがないほど、代表作が数多くあり、かつ、今もなお第一線で活躍され、長年に渡って声優業界を牽引する、声優の【山口勝平】

伝説とも言えるラジオ番組、超機動放送アニゲマスターのパーソナリティでもあり、アニラジ、というワードが生まれ出した創世記にラジオ業界で仕事をしていた【おたっきぃ佐々木】

 

この3名のロングインタビューも掲載されているため、これを読むだけでも価値があると断言出来る。

特に、フライングドッグの社長である佐々木氏のインタビュー、というのはどの雑誌でもWebメディアでも中々読めないものであり、かつ、フライングドッグがどう生まれていって、他のアニソンレーベルとは何が違うのか等、代表取締役という立場でありつつ、若かりし頃は一営業として、アニメソングに関わっていた当事者だったからこその、事細かに語るインタビューというのはかなり貴重である。
間違いなく、これを読む前と後で、フライングドッグの印象が変わると胸を張って言えるため、フライングドッグのファンであれば必見だ。

 

もちろんそれだけでも読む価値はあるのだが、やはりメインは何と言っても、600曲というアニソンを1曲1曲レビューしている点だ。

どのように楽曲をレビューしているかについて、Amazonでサンプルとして数ページほど紹介されているため、そちらを見ていただければわかりやすいのだが、あえて一曲だけ、そのサンプルページの中にある、【疾風!アイアンリーガー】のOPである、『アイアンリーガー~限りなき使命~』の部分を、以下に引用をさせていただく。
 

「疾風!アイアンリーガー」OP。歌唱の谷本憲彦は速水けんたろうの名で知る人も多いだろう。90年代半ばには「熱血」というキーワードが似合う作品がいくつかあるが、この作品もその1つ。週刊少年ジャンプが掲げる「努力、友情、勝利」を煮詰めたような作品にふさわしい名曲。イントロの冒頭のドラムロール、泣くギター、スラップ・ベースと盛り上がる要素のてんこ盛りに安心のボーカルが乗った王道ロボットアニメソング。
(引用元:90年代アニメ&声優ソングガイド 名曲しかない! 音楽史に残したいエバーグリーンな600曲内、26ページの該当部分より引用)

 

短いかもしれないが、この僅かな文だけでも、曲の熱量や聞きどころのようなものがヒシヒシと伝わってくるのではないだろうか?

このレベルの熱さや知識量で、この後も数多くのアニメソング・声優ソングが紹介をされているため、読んで気になってしまった楽曲があれば、CDを持っている人はCDをかけながら、無い方はYouTubeで調べてそれを聞きながら読んでみるのもオススメだ。

特に、アニソンもだが、個人的には、声優が歌う楽曲のピックアップは、この時期にオタクをやっていた人間だからこその選曲だと言える。

今でこそ、声優ブーム、ではないが、数多の声優がアーティストデビューをし、歌を出しているが、そのきっかけとなったのは、間違いなくこの時代だ。
故に、この時代があったからこそ、今に繋がっていると言えるのは間違いないため、そこにも注目していただきたいと思う。

 

また、先程紹介した、元モノブライトのベーシストである出口博之氏は、数ページに渡り、特集としてあるジャンルの楽曲を紹介しているのだが、この出口博之氏という方をご存知の方なら、何を紹介するのか、見当がついたのではないだろうか。

 

そう、90年代の、特撮ヒーローソング特集だ。

 

ひょっとしたら、人によってはこのタイトルだけを読んで、なんだよ特撮の歌ないのかよ、とガッカリされる方もいたかもしれませんが、ご安心ください。

特撮ヒーロー作品の歌も、このアニメソングというジャンルを語る上では、欠かせない重要なピースであり、加えて、特撮に対して造詣が深い出口氏の選曲は、特撮ファンならいいところを突いている、と言いたくなる曲ばかりである。

また、曲を紹介するだけでなく、90年代の特撮作品全体についてもコラム的に書かれており、特に、90年代の特撮を語る上では欠かすことが出来ない、エポックメイキング的作品である【ウルトラマンティガ】の話は、知らない人であってもそうなんだと頷いてしまうこと間違いなしだ。

 

と、この本はこんな楽曲あるんだという驚きもあるのだが、それと同時に、読んでいてそうなんだ、と気付かされることが数多くある。

 

先程も紹介したが、疾風!アイアンリーガーのOPであるアイアンリーガー〜限りなき使命〜を歌っている谷本憲彦が、あのだんご3兄弟で有名な、元うたのおにいさんの速水けんたろうだということを知らない人もいるだろう。

他にも、【ドラゴンクエスト ダイの大冒険】のOPである『勇者よいそげ!!』を歌っているのは、今年この世を去り、ウルトラの星へと旅立っていった、帰ってきたウルトラマンの主役である郷秀樹を演じた、団時郎であったことを知らない人もいるのではないだろうか。

他にも、【紅の豚】の主題歌で有名な、加藤登紀子の『時には昔の話を』の編曲を務めたのが、あの菅野よう子である、というのを知らない人も多いはず。

 

さらにそれだけでなく、声優が何人かでユニットになり、アイドルグループを組んで活動をするというのは、今でこそ当たり前になったが、その走りとも言える、80年代に活躍した男性声優アイドルユニット【N.G.FIVE】の楽曲についての紹介もあるのだが、そのライブ会場で失神者が出た、という触れ込みがあるのだが、そんなわけないだろ、と思ってしまった人もいるかもしれないが、これは紛れもない、事実だ。

このような、今だったらあり得ないノンフィクションな出来事も書かれているため、過去のアニメソング・声優ソング関連のライブでこんなことが起きていたのかということも、おそらくこの本を読まなかったら、筆者も知ることはなかった。

 

そういった、この楽曲が出た時の背景なども書かれており、いわばこの本はただ90年代のアニソンを紹介する、だけの本ではなく、その90年代というカルチャーを紹介する、いわば90年代アニメ関連サブカル本、の決定打とも言える内容となっている。

なので、この90年代がオタクの青春だった、と言える方であれば、間違いなく全ページスマッシュヒットすること間違いなしなのは勿論、あぁこんなことあったあった、とつい相槌を打ちたくなってしまう内容なのは間違いない。

もちろんそれだけでなく、この90年代に生まれた、当時で子供であった大人もあぁあったあった!とつい反応したくなる内容であり、かつ、それ以降。つまり2000年代に生まれた人であっても、こんな曲あったんだ、ということや、過去のアニメソングを多く知ることが間違いなく出来る。
特に昨今では、声優がまさにこの時代のアニメソングをカバーすることも多く、若いファンであれば、そういったカバーに対して、この曲なんだろう?と気になった方も多いのではないだろうか。

 

そういった意味でも、老若男女問わず楽しむことが出来る、90年代アニメソングの決定版と言える一冊であり、それと同時にある意味では、90年代サブカル史の一端に触れられる、歴史本としても楽しめる本であると言える。

そしてこれを読んだ3~40代はおそらく、カラオケに行くかアニソンバーにこの本を持っていってかければ、間違いなくオールナイトで楽しめるはずだ。

音楽,アニメ,

Posted by naishybrid