FOR A REASON『Lights and Signs』レビュー
前作『FOR A REASON』から6年ぶりとなるフルアルバムを発売した日本のメロディック・ハードコアバンド『FOR A REASON』。
メロディック・ハードコアと称しているが、人によってはメロコアじゃないの?と思う方もいるかもしれない。
もちろん、メロコアという言葉がメロディック・ハードコアの略称ということは百も承知している。
ただ、一パンク好きとしての意見として、昨今、メロコアとメロディック・ハードコアは同じ言葉であるが、どこか差別化して使われていると感じている。
定義自体は曖昧で、未だにこれといった明確に分けられるラインや決まりはないのだが、強いて分けるとするのならば、1990年代~2000年代にかけて世界に拡がった海外のパンクバンドを感じられるサウンドをルーツに持ち、音を聞いてその香りが感じられるようなバンドを、メロディック・ハードコアバンドと称する。と一個人として感じている。
そしてこのFOR A REASONが、日本では数少ない、本物のメロディック・ハードコアバンドだと個人的には感じている。
Lagwagonやface to face等の海外のパンクバンドをルーツに持つ哀愁と激しさが感じられるサウンドと、ボーカルのKENGO(敬称略)の、いい意味でキャリアを感じさせない、常にエバーグリーンな青臭さを感じる声質。
そして何よりも、ライブでは全員が拳を上げ、ボーカルのKENGOは客席に向かい、それに乗じてファンは我先にとダイブやモッシュなどしてマイクに詰め寄り全員が思い思いにシンガロングをする様は、バイオレンスでありながらもピースフルさも感じられるライブは圧巻の光景である。
しかし、言わずもがな、このコロナ禍でライブは全てなくなり、目に見える形でFOR A REASONの動きがなかった中で今年、待ちに待った6年ぶりのフルアルバムが発表された。
さらに今回は、公式オンラインショップにて、ベースとなるボディから作られたTシャツとのセット販売や、同じくボディから作成したパーカーの受注生産も、期間限定ながら行われていた。
このような、音源とTシャツをセットで販売するというのは、よくある形式だが、そのTシャツというのは大抵、どこかのメーカーのTシャツを大量に購入し、そこにシルクスクリーンプリントという技法を使い、Tシャツにプリントするということがほとんどである。
(バンドグッズだとGILDANやUnited Athleの2つがTシャツボディーとして使われることが多いです。)
しかし、その素体となるTシャツやパーカーを一から作る。というのは前代未聞であり、そのこだわりポイントを公式Twitterに上げてはいたものの、手に取るまでよく分からないというのが正直なところだった。
が、いざ実際に手に取ると、ハッキリ言ってTシャツとセット販売どころか、Tシャツ単品でも販売されてはいたが、それでも利益なんてあってないようなものでは?と疑わざるを得ないほど、とてつもないクオリティの至極の一品となった。
前置きが長くなったが、ここから、今回のアルバムとオリジナルTシャツのレビューをしていく。
アルバムレビュー
今回はアルバムを出す前に発表されていた既存曲3曲と、新曲7曲を加えた全10曲で構成されている。
が、トータル約23分という、フルアルバムでありながらもファストチューンで構成されているのもまた本作の特徴である。
実際、一番長い曲でも約3分(正確に言うと3分1秒)というのもまた驚きである。
もちろん、長ければいい、というわけでなく、逆に短ければいいというわけでもないのは言わずもがなだろう。
ただ今回は、この短さが非常にいい効果を出していた。
1曲聞き終えたと気持ちの整理をつく間もなく徹頭徹尾のメロディック・ハードコアサウンドが立て続けにやってくるため、個人的には、5曲で1つの大きな曲となっているような印象を感じるのだ。
さらに本作では、イントロが長い曲もあれば、繋ぎとなっている楽曲もある。
昨今、サブスクの配信により、世界中どこにいても世界中のアーティストがすぐ簡単に聴けるようになり、リスナーとしてはメリットしかないのだが、それによってイントロが長い曲が少なくなっている傾向にある、というのを聞いたことがある音楽好きも多いはず。
加えて、これは個人的に今回のアルバムを聞きながら想ったことなのだが、イントロが短い曲も増えたが、それと同時に、1曲1曲で聞く文化になっているからか、アルバムの中で繋ぎになっている曲が少なくなっていると感じたのだ。
決してFOR A REASONもサブスク配信されていないわけではなく、当然配信されているが、昨今の音楽事情に左右されず、自分たちの信じた音楽作りを真っ直ぐ行う姿勢には物凄くパンクを感じざるを得ない。
サウンド面はこれまで培ってきた哀愁漂いながらも、メロディックで激しさと重さが合わさったFOR A REASONサウンドここにあり!と言わんばかりのサウンドとなっていますが、個人的には歌詞に注目した。
アルバムに付属されている歌詞の日本語訳を読むと、少し気になった部分があった。
それは、IやWeなど、自分や自分たちのことを訳す時に『ぼく』や『ぼくら』というひらがなで表現しているということ。
ただ、自身の内面について書いた歌詞の和訳では、『自分』という漢字を使い、その後の自分を表す言葉は、やはり『ぼく』になっているのだ。
ここに対しては当然歌詞を書いた当人しか分からない部分なので、リスナーがあれこれ言ったところでそれは違うと一蹴される可能性も大いにある。
ただ、この歌詞を読んで、なぜ自分のことを表現する時にぼくというワードを選んだのかを考えた際に、自分たちのことを歌いつつも、聞いているリスナー側も自分たちの歌だと言わせたいのでは?と考えたのだ。
先程少し触れたように、FOR A REASONのライブはバンドとファンがもみくちゃになり、一つになるライブが最大のウリだ。
だからこそ、自分の曲ではあるが、同時に、聞いてくれた誰もの”みんなのうた”にしたかったのでは?と一個人としては感じたのだ。
僕とぼく、と文字として書くと、当然ひらがなと漢字というのはあるが、感じ方は異なる。
個人的には、僕よりもぼく、の方が、不特定多数の誰もが当てはまる印象があり、ぼく、の方が自分のこととして捉えられると感じています。
アルバムのタイトルである、Lights and Signs=光と道しるべ、とあるように、この曲が、アルバムが、自分のことを歌っている曲だと感じ、不特定多数の今を生きる”ぼく”のテーマソングとして、日々の生活の傍に在り続けてほしい。
そしていつか再会をした暁には、ぼくたちの共通のこの曲たちで、思いっきり再会を祝おう。という、この先への願いも込めて、このアルバムではぼくに統一したのでは?と感じた次第だ。
また、いわゆる歌詞カードも彼らのこだわりが徹底的に詰まっており、詳細は省くが、こんなにアートにまみれたというか、遊び心が溢れた歌詞カードは久しぶりであり、歌詞カードを読んでいるだけでワクワクしてくるのだ。
さらに本作には、今どきのアルバム、いやCDというモノ自体にあまり付属されることがない、ライナーノーツも付属している。
このライナーノーツは、『ATATA』というバンドのボーカルの奈部川さんが書いており、かつ、奈部川さん本人から逆オファーでぜひとも書かせてほしいと依頼したことで、今作のライナーノーツが実現した形になる。
ただ、ATATAもとい、奈部川さんとFOR A REASONの関係は実はとても浅く、約2年前に繋がったというにも関わらず、こうして書かせてくれ!と逆オファーをするくらい、一つのバンドとしてのめり込んでいるだけあって、熱量が込めに込められたライナーノーツも必見である。
ただ、実はFOR A REASON自体も、奈部川さんがATATAを組む前にやっていたバンド時代にデモ音源を渡していたとのこと。
さらになんと、本日公式Twitterにて、ボーカルのKENGOが中学2年生の頃にライブ会場で一緒に撮ってもらった写真をアップしており、FOR A REASON自身も、憧れの人が自分のバンドに惚れ、更にライナーノーツまで書いてくれるという、双方にとって夢のような経験となったのだ。
そんな、様々な想いが詰まりつつ、俺たちの見てきたパンクってこういうものなんだよ。と、そのバックボーンやカルチャーなどを現代に再アプローチするかのような本作は、誇張抜きでFOR A REASONの最高傑作であると同時に、あの頃を知ってる人にも知らない人にも、ノスタルジーではなく、現在も途切れず続くシーンのカルチャーをリマインドさせる道しるべとなっているのかもしれない。
オリジナルTシャツレビュー
ここからは、今回、公式オンラインショップにて注文した、オリジナルTシャツについて紹介していく。
まずはこちらがフロント。
今回、アッシュを注文したが、実は本来買う予定だったのはネイビーだった。
しかし、サイズ切れにより、まだサイズがあったこちらのアッシュを注文したのだが、こちらも公式Twitterで語っていたことなのだが、このアッシュは特注であり、染色と紡績だけで、なんと3か月もかかるとのこと!
注文当日にそのことが発信されたため、サイズ切れで仕方ないというところもあったのが、一気にこんなコストをかけたものを注文出来てラッキー!という気持ちにすぐに切り替わり、単純というかなんというか(笑)
ただ、僕自身服の染色を何度か実際に行ったからこそわかることだが、このような霜降りな、白とグレーが混ざった一枚にするというのは本当に難しい。
普通、染料で染める場合、基本その一色となるため、こうした白だけどグレーもあるというのは、よっぽど手間暇かけなければならず、かつ、配合も難しいのも承知している。
だからこそ、正直、この値段で売っても利益がほぼないというのはそういうことで、圧倒的にコストがかかりにかかりすぎていると感じたからこそ、ここまでこだわって作るか!?というFOR A REASONの姿勢には脱帽しかない。
こちらがバック。
FOR A REASONのロゴが描かれており、Live Your Heart and Always Followtという彼らの楽曲の1フレーズであるYOU ARE NOT ALONE=一人じゃないというメッセージも込められている。
と、ここまで書いてきて、じゃあこのTシャツのどこがオリジナルなの?と思われたでしょう。
というわけで次から、各部分での比較となります。
今回は、バンドTシャツで最もよく使われているであろうブランド、GILDANのTシャツと比較します。
まずは首元です。
一目見てわかるでしょうが、今回のオリジナルTシャツは、別のパーツを移植してきたのでは?と思わざるを得ないほど、分厚くしっかりしています。
こちらは袖とボディとの結合部分となります。
GILDANも二重紡績でしっかりしていますが、このオリジナルTシャツは一方向ではなく二方向から縫製が施されており、加えて、袖と本体のの結合部分にまで同様の縫製が施されており、これだけでも相当な手間暇がかかっていると実感させられます。
袖の末部分にも同様の縫製が施されております。
加えて、裾部分にもこの縫製が施されているため、GILDANと比較してみて、もはや全てにおいてコストしかかかっていないと感じられました。
誤解なきよう言っておきますが、GILDANも素晴らしいTシャツです。
ただ、そんなGILDANと比較しても、今回のTシャツのこだわりは圧倒的であり、本当に素晴らしいTシャツだと感じています。
個人的な話をすると、以前古着屋で働いていたことがあり、その中でSupremeなどの人気ブランドのTシャツを取り扱うこともありました。
そのSupremeのTシャツと比較しても、このTシャツのクオリティは引けを取らないです。
今後、ライブ活動が再開された際にこのTシャツで販売されるかは不明ですが、もしこのTシャツに触れる機会があるのであれば、バンド好き・バンドTシャツ好き・ファッション好き。ぜひとも一度触れていただきたいと感じております。
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