the LOW-ATUS『旅鳥小唄/Songbirds of Passage』レビュー

2021年6月14日

先日、6月9日。

語呂合わせでロックの日とも呼ばれるこの日に、ある1枚のアルバムが世にリリースされました。

 

それが、ロックバンド【the LOW-ATUS(ザ・ロウエイタス)】の1stアルバムであり、同時に初音源となる『旅鳥小唄/Songbirds of Passage』です。

 

the LOW-ATUSとは、BRAHMAN/OAUのボーカルであるTOSHI-LOWさんと、ELLEGARDEN/the HIATUS/MONOEYESのボーカルである細美武士さんの2人からなるバンドです。

だからと言ってドラムやベースが別にいるというわけではなく、2人がアコースティックギターを弾きながら歌うというバンド形式です。

 

the LOW-ATUSが生まれたキッカケとして、2014年に、福島で行われた音楽イベント『STEP in FUKUSHIMA』で、本来ならば2月に開催予定だったイベントが、大雪などの荒天で中止となり、4月に振替公演が行われることとなりました。

その時に、細美さんは本来the HIATUSとして出演予定だったのですが、振替公演が決定した際に、他のメンバーのスケジュールが合わず、the HIATUSとしての出演が出来なくなり、その代わりとして出演することになったのが、このthe LOW-ATUSでした。

そしてこれが、同時にthe LOW-ATUSという名での初ライブとなりました。

 

ちなみにですが、筆者は2013年にまだこの名前になる前の2人の弾き語りを見たこともあり、かつthe LOW-ATUSという名前になる以前から何度も2人で東日本大震災で被害を受けた東北に足を運び、ライブを行っておりました。

 

このライブ以降も、度々the LOW-ATUS名義で東北をはじめとした様々な土地でライブを行っていましたが、基本はMCという名の2人のおしゃべりと、反戦歌や社会のこと、それと自分たちのバンドの曲などのカバーのみの弾き語りライブを行っておりました。

 

しかしこの度、完全オリジナル曲のみで構成されたフルアルバム『旅鳥小唄/Songbirds of Passage』を発売し、さらに新レーベル『IMPLODE』も立ち上げ、本格的に動くこととなりました。

IMPLODEという言葉には、内破する・内側に破裂する・(体制などが)崩壊するという意味もあります。

 

今回は、このthe LOW-ATUSの1stアルバムである『旅鳥小唄/Songbirds of Passage』のレビューをしていきます。

旅鳥小唄/Songbirds of Passageレビュー

まず、一言で言えば、このアルバムは、本当に優しいアルバムであり、かつ2人の関係がここまで如実に出た、正直すぎる一枚だと感じました。

 

2人の歌声とアコースティックギターの音色のみ。という誤魔化しが一切きかない音だからこそ、2人の気持ちがダイレクトに届き、同時にこの2人のボーカリストとしてのクオリティ・歌声の良さを改めて感じられるのです。

 

それこそ、この編成だと歌謡曲テイストなものを連想させるようなイメージを持たれますが、全然そんなことを感じさせず、むしろこの10年、3月11日があったことで一気に関係が深まり、同じものを一緒に見てきたらこその風景がこの11曲には詰め込まれており、自分が体験していなくとも2人の体験を曲を聴くだけで追体験させる。

そんな不思議な気持ちになり、曲を聞いて楽しむというよりも、アルバムや日記を見ているかのように歌詞の情景がありありと頭に浮かんでくるかのようです。

 

だからと言って100%真面目な曲ばかりではなく、完全にフィクションな世界で展開されるダンシングクイーンや、いろんな意味で衝撃的過ぎてお腹痛いみかんなど、良くも悪くもふざけている・楽しんでいるロウエイタスの遊び心が出ており、ピリッとしたスパイスのようなアクセントにいい意味でなっています。

 

そんな様々な風景の追体験や遊び心(というか、ほぼふざけてる感しかないですが…)に溢れた歌詞だけでなく、この世の中の現状を憂いた曲もあり、この2人を知っている人からすれば、正直また政治的なこと歌ってんかよ。と極端な考えになりがちな方もいるかもしれません。

しかし、何かこういった考えを強制しているというわけでは決してなく、こんな現状ですね。さぁ聞いているあなたはどうするの?と、聞いている人に問題提起をし、指をくわえて見ているだけでいいんですか?と、人として当たり前で、本当に大切なことを言葉にして歌ってくれる歌詞もあります。

 

これをクサいこと言ってんな?と思う方もいるかもしれませんし、逆にこんな青臭いこと言ってるのを馬鹿にするのであれば、正直このアルバムを聞くのはおススメしません。

ただ、音楽で色々なものが変わってきて、自分の気持ちを、ケツを蹴り上げられたことがある人であれば、これを聞いた後でじゃあ自分はどうしよう?どうなっていけばいいのか、を改めてみるいい機会となります。

 

そんなラストに来るいつも通りで、色々と歌ってきながらも、結局最後はいつも通り。

何があっても、世界が色々と変わってしまっても、この関係は変わらない。という、ポジティブさに溢れているというよりも、夜が明けて朝が自然とやって来るかのごとく、ただ当たり前にこれからも続いていく・・・という、良くも悪くもロウエイタスのことを歌っているのですが、ただ、この2人の関係と歌詞を思い浮かべるだけで、思わず目に涙を浮かべること間違いなしの一曲です。
(というか、僕は初めて聞いた時ボロ泣きしました。)

 

孤独や閉塞感を感じることが多いこの数年、自分なんか・・・とマイナス思考に陥りがちな中で、隣にいてくれる誰かの存在を思い出させてくれるような暖かみもありつつ、全て聞くと、人間として改めてどう生きていけばいいのかという課題を、心にズシッと残していくかのようでもあるため、ハートフルでありながらも、同時にものすごくパンクな一枚となっています。

 

彼らの精神性はジャケットにも表れており、ジャケットに使われている写真は、昭和の写真家『林忠彦』さんの写真である『犬を背負う子供たち』という写真です。

終戦直後に撮影された写真で、物資や食料がままならない状況の中で、2人の少年が歩けなくなった犬を背負っているという写真となっています。

 

この写真について、ポテトチップスのキャラクター等、様々なキャラクターを描かれてきた『原田治』さんが、自身のブログで、この写真について語っており、このブログを読む前と後で、印象がガラッと変わるため、ぜひ読んでいただければと思います。

この原田さんのブログを読んで写真の内容が分かった後で、改めて曲を聴きながらジャケットを見返してみれば、新たな発見や気付きがきっとあり、同時に、最終的にこういう人間こそ、今の我々が目指す到達点ではないか?と個人的には辿り着きました。

まとめ

というわけで今回は、the LOW-ATUSの旅鳥小唄/Songbirds of Passageについて紹介をさせていただきました。

 

元々、どちらも人としてとても尊敬しており、こういう男になりたい!と思うカッコいい人たちなのですが、それぞれのバンドだけでなく、ロウエイタスでのライブも何度か見ており、その都度爆笑のMCに笑わされ、歌でジーンとなる・・・とわかっていましたが、それでもフルアルバムをオリジナル曲のみで!?というのは、ファンからしても最少は驚きでした。

 

しかしいざふたを開けてみれば、こんなに優しい曲やふざけた曲、面白い曲が並び、非常にバラエティに富んだ作品となっており、通しでずっと聞きたくなりますし、疲れた夜に、肩の力を抜いた状態でぼーっとしながら聞きたくなるような、そんな魅力に溢れた1枚に脱帽でした。

 

また、サブスクではPVになった2曲しか配信があえてされておらず、この続きを聞きたかったらぜひCDを買ってね。という彼らの想いが感じられる販売方法は、正直サブスクとCDの販売の比重を見事に一致させたかのような気がしており、今どきでは時代遅れかもしれませんが、それでも彼らの優しさや、同時にバンドマンとしての矜持を僕は感じたため、このような販売方法にして正解だったのでは?と思っております。

 

これから、このアルバムを引っ提げた全国ツアーが始まるのですが、ロウエイタスでのワンマンライブツアーというのは当然初の試みなので、どんなライブになるのか。そしてこの2人はどれだけステージ上でお酒を飲むのか等々、今から見どころ盛りだくさんなので、行かれる方はぜひ楽しんでください!


 

ちなみに、以下のタワーレコードオンラインで買えば、先着特典になるのですが、お2人がポスターで掲載された『NO MUSIC, NO LIFE』のデザインのポストカードが付いてきます!

もちろん、先着特典なのでまだあるかはわかりませんし、すでに配布終了となっている可能性もあるかもしれず、かつ現在はお取り寄せという形にはなっていますが、もし気になる方は以下のリンクから覗いてみて、併せてポストカードも欲しい!という方は、タワーレコードさんにお問い合わせしてみるのもありですよ!


旅鳥小唄 -Songbirds of Passage-

音楽

Posted by naishybrid