My Hair is Bad『サバイブホームランツアー』上田Radius ライブレポート

正直に言うと、My Hair is Badの、今の彼らの人気からしたら到底見合わないほどに小さなキャパシティのライブハウス。

 

であるにも関わらず、なぜこんなに似合っているのだろうか。

ライブを見ている中で筆者はこう感じた。

 

 

去年の8月からスタートしたMy Hair is Badのツアー、その名もサバイブホームランツアー。

去年6月に発売したアルバム『boys』のリリースツアーも兼ねられており、2、3000人が入るライブハウスはもちろん、200人以下のライブハウスもある中、ツアーファイナルはついに、あのさいたまスーパーアリーナ2daysという、もはや誰の目から見ても超人気バンドとなっているのは明らかであろう。

 

 

そんなこのツアーの中でも、有数の小箱(キャパシティが少ないライブハウスのこと)である、上田Radius公演にチケットが運良く取れ、今回参加出来ることとなった。

 

これは個人的な目測だが、おそらく人数としては、多くて170人しか入っていなかったように見えた。

 

当然、小さいからこそ、空気感が何倍も伝わってくるのだが、それ以上に小さいライブハウスでも全く手を抜かない、いや逆に小さいからこそ手を抜いたら直ぐにバレるのが分かっているからこそ、演者もフロアも全力で作り上げた濃密な2時間となっていた。

 

 

定刻6時ちょうどに始まるとゆっくりメンバーが登場し、新潟県上越市からやって来ましたMy Hair is Badです。と挨拶し、君が海からライブが始まる。

また、昨日はFLOWが主催の対バンツアーの新潟公演に出演していたこともあってか、ベースの山本はそのFLOWの対バンツアーTシャツを着ていたことも印象的だった。

 

今日は今日しかない。上田遊ぼうぜ!とボーカルの椎木が声をかけると、フロア前方がギュッと詰まり、これぞライブハウスっぽい光景となる。

 

そのまま青から浮気のとなりでまでを立て続けにプレイし、全く手を緩めることなく、それでいて安定感とは無縁な椎木の掻きむしるようにギターを弾く姿と対照的に、ベースの山本とドラムの山田はそれを支えるかのように、時にしなやかに、時に熱くプレイし、これぞ三位一体の3ピースバンドという形を見せつけていく。

 

簡単にMCを済ませると、言いたいメッセージは曲で言うと見せつけるかの如く、ドラマみたいだ・観覧車・悪い癖と立て続けにプレイしていく。

 

その後、椎木の独白のような語りから始まり、言葉を紡いでいる途中に感情が顔にまで表れ、グッと引き込まれると同時に、より曲の世界観が広がった気がした化粧をプレイすると、序盤ではあるが早くもひとつエンディングを迎えたかのような展開で、見る者全員を釘付けにしていく。

 

 

と、こんな美しい曲の後のMCとの温度差が凄すぎた。

上田の公演といい上田の人がどれだけいるかと聞くとかなりまばらであり、さらに範囲を広げ長野の人と聞くと、全体の1/3程度であるのを見て、えぇっ…どこここ・・・?と本気で困惑していたようだった。

また、最近椎木が何をやっていたか覚えていないという話になり、ここ最近やったことと言えば映画のパラサイトを見て、その前にラーメン二郎品川店(店名は絶対大事)でヤサイマシマシで食べて、あとは取材を受けて・・・ということをしていたそうだが、自分の記憶力を本当に心配していた。

さらにマイヘアチームの照明の方がこの前誕生日を迎えた話になり、なぜか椎木だけ呼ばれてないという話になり、その理由をその照明の方に代わりドラムの山田が語っていたのだが、そういうことを言うと椎木はすぐブロックする。という理由から誘わなかったそうである。

今日一日頃の行いって大事だと実感させられた瞬間だった。

 

そんななんとも言えない空気感から戻り、上田の本気見せてもらっていいですか!と椎木が客に焚き付け、アフターアワーからライブを再開させると、言った自分たちが本気を見せつけるかの様にフロントマン2人が可能な限りフロアに近付き、手を伸ばせば触れられるかの距離で演奏をし、飛び跳ね、そしてこれまで以上に声を張り上げ、より感情剥き出しのステージになっていく。

途中、ディアウェンディでは、サビ以外のほとんどの歌詞を変え、普通なら破綻しそうなところが全てがピタッとハマり、この日の興奮をより押し上げる推進剤のようだった。

 

しかし、これでも全然足りていなかったのか、元彼氏としてが終わると椎木はフロアに向けてマイクを通さずに、後ろの方まで全部見えてるからな!と叫び、今日は今日しかない!全員でやろうぜ全員で!と、ピークを迎えていたフロアの熱をまだまだ焚き付けていき、ダメ押しと言わんばかりにlighterを投下する。

 

その後の展開は、この日一番のハイライトであり、誰も記録出来ない、当の本人も歌えない、けれど誰の記憶にも残る壮絶な時間だった。

 

椎木が一人でギターをかき鳴らし、思いの丈を全て吐き出していったのだ。

どこを切り取っても全てが言葉として強いのだが、その一部分だけを抜粋すると

 

今日は今日しかない。この歌だって今日しか歌えないし俺も歌えない。だから今日に全てベットしてる。
皆が時間とお金を割いて来てくれたからには1度掴んだらには絶対離さねぇ。

俺らはこうやってるけど絶対フロアにいる皆の方が賢い。
だから俺が適当なことやればすぐにバレるし嘘を言ったらすぐにバレる。今日全力でやってるから全員で全力でやらなきゃ意味が無い。

つまり何が言いたいかっていうと、Do or Die.やるか、死ぬか、それだけ

 

一部分だけの抜粋だが、正直、言葉数はこの何倍もあり、覚えるのも絶対不可能だったが、それ以上に圧倒されすぎた。

なぜここまで言葉が出てくるのかというのはもちろん、40公演以上もこんな風に言葉を紡いできたのかという驚きももちろんだったが、それ以上に感じたのは、椎木知仁はなぜここまで本気で、そして焦っているのか、という事だった。

 

誰が見てもMy Hair is Badは成功したバンドであり、ぶっちゃけた話焦る必要なんてもうないはずであろう。と思ってしまうのだ。

 

しかし、当の本人達は全く満足している感もなく、むしろこの現状すら打破したいような、ギラギラした尖った感じとも違う、大成したからこそバンドマンとしてあり続けたいという、一種の抵抗であり、これからもそうして戦い続けていく決意表明をするための時間のように感じた。

その勢いのままプレイしたフロムナウオンはこの日にしか紡げない言葉で作られた歌詞の、今日しか聞けない・歌えないフロムナウオンだった。

 

その熱狂の後、1個思い出したことがあって、と切り出し、今日ここに来て、このライブハウスは、俺が始めて行った中3の時に出ていたバンドのヨウスケさんがやってて、4年前とか5年前に、当時の彼女がお金もなかったのに上田まで送ってくれたことを今日ここに来て思い出して、ここに来なかったら思い出すことはなかったと、この上田という土地に対する思い出を語った。

そして、自分たちの街のことを歌った歌を聞いてくださいといい、彼らの町である上越のことを歌ったホームタウンをプレイする。

時間が経ってこうして満員の前でやれた事が嬉しいと語り、自分の人生を1本の映画だと思って聞いてくださいと芝居をプレイし、この曲で4、5年くらい前にメジャーデビューしたけど、これはみんなの曲だから、みんなで歌ってくれよ!といい、彼らの代表曲の1つである戦争を知らない大人たちを全員で歌い上げ、今日しかないこのライブを作り上げていく。

 

この熱狂が終わる最後まで楽しんで!とラストに熱狂を終え、告白を全力でプレイすると、それに応えるかのようにフロアも熱が上がり、気付けばシンガロングも増えていき、冗談抜きでここにいる全員で作り上げた最後だった。

 

アンコールに応えメンバーが戻ってくると、山本のゆるいMCから始まり、椎木が前にここに来た時に酒は1分のインターバルがあればいくらでも飲み続けられると言い、店長のヨウスケさんが苦い顔をして、結局4杯飲んだ時に死ぬかと思ったと当時の苦い思い出を語っていた。

そして、また上田に戻ってこられるように頑張りますと宣言し、アンコールに真赤といつか結婚してもをプレイし、今日しかない、今日にしか見れないライブは大団円で終わった。

 

 

このライブの数週間前にマイヘアが好きな親戚の子とお正月ということで会え、この日に行くと話していたら、久しぶりにこの前ライブ見たら丸くなったなって印象を感じたと語っていた。

 

自分自身マイヘアを見るのは2016年に行われたSUMMER CAMP 2016振りだったのだが、確かに、その時よりは尖っている印象は感じなかった。

しかし、あの日に見た熱量と全く変わらず、最前線でずっと戦い続けてきた、バンドマンとして全くブレていない姿があった。

 

そのSUMMER CAMP 2016の時にMCで椎木が言っていたことを今でも覚えているのだが、ありえないことを起こすのがロックだろ!と叫んでいた。

 

それから4年振りにライブを見ても、やはりロックを使って、ありえないことがライブハウスで起きていた。

 

おそらくこの先も、150人のキャパシティのライブハウスでもこの100倍のキャパシティはあるさいたまスーパーアリーナでも、変わらずバンドマンであり続けるだろうし、これからもロックを使ってありえないことを起こし続けてくれる、いや言われなくてもずっとこうやってくんだろうなと思わせてくれた。

そしてまた上越から、全国のライブハウスでドラマみたいなことをずっと起こしてくれる。そんな確信を持てた。

しかしずるい。こんなライブを見せられたら、絶対に離れられなくなるし、本当にいいバンドすぎて、また会いに行きたくなってしまうなんて、My Hair is Badのライブは本当にずるいから、その日まで生きてやろうじゃないか!